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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)5322号 判決

原告 栗原昭治

被告 国

代理人 岩谷久明 津田真美

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、訴外岡部勇二に対する東京地方裁判所昭和五三年(ル)第三一二二号、同年(ヲ)第六〇四七号債権差押及び取立命令の決定に基づき、別紙債権目録記載の一〇〇万円の保釈保証金返還債権についてした強制執行はこれを許さない。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、訴外岡部勇二に対する東京地方裁判所昭和五三年(ル)第三一二二号、同年(ヲ)第六〇四七号債権差押及び取立命令の決定に基づき、昭和五三年七月一二日、別紙債権目録記載の一〇〇万円の保釈保証金返還債権に対して、差押をした。

2  右保釈保証金返還債権は、原告が、東京地方裁判所昭和五〇年(わ)第一一三二号贈賄被告事件において、原告の弁護人であつた岡部に委任して、昭和五〇年四月九日に、原告の保釈保証金として、原告所有の金一〇〇万円を代理納付させた保釈保証金の返還請求権であるから、原告に帰属するものである。

3  保管金規則(明治二三年法律第一号)三条によれば、保管金の証書は売買、譲与又は質入れ等を禁じており、本件差押取立命令は違法である。

4  よつて、原告は、保釈保証金返還債権に基づき、右差押の排除を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実のうち、岡部弁護人が、原告主張の日にその主張の刑事事件について、保釈保証金として原告主張の金額を納付したことは認めるが、右金員の納付が原告を代理してなされたものであること及び保釈保証金返還債権が原告に帰属するものであることは否認する。

3  保管金規則は任意処分を禁止しているにとどまり、保管金返還請求権の差押え、取立までも制限する趣旨ではない。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因2の事実、すなわち、本件保釈保証金返還債権の帰属について判断する。

1  請求原因2の事実のうち、岡部弁護人が、昭和五〇年四月九日に東京地方裁判所昭和五〇年(わ)第一一三二号贈賄被告事件について保釈保証金として一〇〇万円を納付したことは当事者間に争いがない。

2  原本の存在と<証拠略>によれば、原告の前記贈賄被告事件について弁護人であつた岡部は、昭和五〇年四月八日、弁護人として東京地方裁判所に対し、原告の保釈を請求し、同裁判所裁判官稲田保は、右請求に基づき、翌九日、岡部に対し、保釈保証金として二〇〇万円の納付を命じ、うち一〇〇万円については岡部提出の保証書をもつて充当することを許可したうえ、保釈を許可する旨の決定をしたことが認められる。

3  ところで、刑訴法は、被告人のほか、弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹を保釈請求権者と定め(八八条一項)、保釈保証金の納付を保釈の必要的条件としている(九三条一項)。被告人以外の者の請求により保釈が許可された場合においても、その効果は直接に被告人に及ぶものであるけれども、保釈保証金の納付義務を負うのは、刑訴法九四条二項で特に保釈保証金の代理納付の制度を設けていることに照らして考えても明らかなとおり保釈請求者というべきである。したがつて、保釈保証金納付に伴う法律関係は、納付者と国との間に直接的に生ずるものというべきであり、よつて、その返還債権も納付者、すなわち、代理納付が許可された場合を除き、保釈請求者に帰属するものというべきである。

この理は、保釈請求者が被告人の包括的な代理権者というべき弁護人である場合にも何ら変わることはなく、仮に実質上の出捐者が被告人であつても、弁護人が国庫から還付を受けた保釈保証金の返還を弁護人に請求できることは格別、被告人には国に対する保釈保証金の返還請求権は認められないというべきである。

4  そこで、本件をみるに、前記1及び2の各事実によれば、本件保釈保証金返還債権の権利者は岡部であるというべきである。

三  以上のとおり、本件保釈保証金返還債権の権利者は岡部であるから、原告を右債権の権利者であることを前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 牧山市治 小川克介 深見敏正)

目録 <略>

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